いま世界中の観光地が直面する「オーバーツーリズム」の危機《Part.1》

2019.03.15

ライフ・ソーシャル

いま世界中の観光地が直面する「オーバーツーリズム」の危機《Part.1》

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2018年、訪日外国人旅行者が3000万人の大台を突破し、国を挙げてインバウンドの需要拡大に沸き立つ日本。 世界的に見ても国外へ旅行する人の数は年々増加しており、2017年の世界の海外旅行者数は過去最高の約13億人(前年比7%増)、観光産業による総輸出額は1兆6000億ドル(約176兆円・前年比5%増)に達したという。格安航空会社の進出や途上国の経済発展を背景に、世界的な「旅ブーム」は今後もますます拡大すると予測されている。 その一方で、いま世界中の多くの観光地では「オーバーツーリズム」という深刻な問題に直面し、その対応・対策に頭を悩ませているようだ。日本で「観光公害」とも呼ばれる「オーバーツーリズム」とは、いったいどのような問題なのか……。国内外のさまざまな事例や取り組みを、2回に分けて詳しく見ていくことにしよう。

そもそも「オーバーツーリズム」とは何か?

観光地の許容限度を超える観光客が押し寄せることで、さまざまな弊害が生じる事態── それが「オーバーツーリズム」だ。これは2年ほど前から世界で使われはじめた造語で、いまや観光産業を語る上で、業界でも学術界でも欠かせない言葉となっている。

まず、観光地に人があふれると、街の混雑、交通渋滞・事故、騒音、ゴミ・トイレ問題、環境破壊などさまざまな問題が発生し、そこに住む地元の人たちの日常生活にも支障が生じてくる。さらに、これらの問題が拡大することで、観光地の価値や魅力自体が失われてしまう可能性もあるのだ。オーバーツーリズムとは、こうした危機的事態の総称といえるだろう。

地元住民の生活が脅かされる海外3都市の事例

このオーバーツーリズム、世界各地で深刻な事態を生み出している。まず、地元住民と観光客のトラブルが多発し、国や行政が対策に乗り出した3都市の事例を見てみよう。

【バルセロナ/スペイン】
1992年のバルセロナ五輪を機に、スペイン最大の観光都市に成長したバルセロナ。市民約160万人に対して、その20倍近い年間約3200万人の観光客が訪れ、夜間の騒音やゴミ問題などが深刻化。民泊の増加で空室のアパートが減り、賃貸物件の家賃が急上昇するなど、市民生活への支障も生じているという。
こうした事態を受け、2015年に就任したアダ・コウラ市長は「バルセロナをきれいな街に再生させる」と宣言し、2016年10月から1年間、歴史地区での新たな商業施設の開設を禁止。さらに、2020年に向けた観光都市計画では、宿泊(民泊)を目的としたマンションの建設禁止と、固定資産税の引き上げを発表している。

【アムステルダム/オランダ】
アムステルダムの観光名物「ビアバイク」。1台に10人ほどのグループが乗車し、ビールを片手にペダルをこいで街を散策できる観光用の乗り物だ。
しかし近年、観光客の増加とともにビアバイクによる交通渋滞・事故や、酔って騒ぐなどの問題が頻発。住民からの苦情や市側の訴えを受け、地元裁判所は「無秩序な振る舞いは許されない」と判決を下し、2017年11月から市中心部でのビアバイク営業を禁止する条例が施行された。

【ベネチア/イタリア】
「水の都」と称される世界有数の観光地ベネチアでは、地元住民約5万人に対して、その500倍におよぶ年間約2500万人の観光客が訪れる。増えすぎた観光客の影響で、生活通路の運河や路地の混雑が慢性化し、ついに地元住民の怒りが爆発。大量の観光客を運び込む大型客船の周囲をボートで取り囲み、「ベネチアに来るな」と海上デモを展開する事態となったのだ。
これを受けてイタリア政府は、ゴンドラや観光ボートのルート変更を命じ、ピーク時には路上にも観光客の立ち入りを制限するゲートを設置。地元住民を優先して通行させる措置を講じた。

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