<PEST分析のT> 「ゲノム編集」が実用化に入ってきた。つい先日、イギリスでゲノム編集により命を救われた少女の話が伝わってきた。生後3ヶ月の幼女が急性リンパ性白血病と診断され、化学療法、骨髄移植などを受けたが治癒しなかった。最後の手段として採用されたのが、ゲノム編集で作られた細胞の骨髄移植である。これにより幼女は一命を取り留めた。
ゲノム編集というパンドラの箱
冒頭の少女の話は、ゲノム編集を使った治療である。ゲノム編集は、この10年ほどで急速に進歩した技術であり、さまざまな懸念を孕む技術でもある。
これを使えば、遺伝子情報を思い通りに書き換えることができる。少女の場合は、ドナーからもらった免疫細胞に編集を加えて少女に移植した。これにより、本来ならドナー以外の体内の細胞を敵とみなして攻撃する免疫細胞を活用して、白血病を治療できたのだ。
この技術の可能性は、いくらでも広がる。例えば、遺伝子変異によっておこる疾患はほとんどが治療可能となるだろう。あるいは受精卵にゲノム編集を施せばどうなるか。狙った通りの子どもを生まれさせることもできるかもしれない。
中国では、人の受精卵にゲノム編集を施したとのニュースがあった。これはiPS細胞関連の研究者の間では話題になっており、中国の研究者たちは「その先」に踏み込んだのではないかとも言われている。
「その先」とは何か。そこはぜひ、皆さんで想像してみてほしい。
僕が、僕一人だけで僕の子どもを創るとき
iPS細胞技術を使えば、次のようなことを既に起こすことができる。男性の皮膚から卵子、女性の皮膚から精子をそれぞれ創るのだ。
だとすれば「その先」を考えてみるとどうなるか。男性の皮膚から創った卵子と、その男性の精子を人工授精させる。子どもが生まれてくる。その子どもは『僕が、僕一人だけで創った僕の子ども』である。
そんな馬鹿な妄想ではある。現時点では妄想にすぎないと思うし、これから先もずっと「そんなアホなこと」は起こらないと思いたい。
けれども、クローン羊ドリーは誕生した。マンモスも復活するかもしれない。iPS細胞技術を使った、再生治療は実証段階に入っている。一方でゲノム編集も現実化し、人の命を救うようになっている。
今ではごく一般的な不妊治療となっている体外受精も、かつでは神をも恐れぬことと批判された時期があった。けれども、人間は、その時点での基準で自分たちに良かれと思うことをやってしまう。
iPS細胞技術、ゲノム編集が、この先どんな未来を拓いていくのか。頭の片隅にでも関心を持っておき、関連ニュースが出た時には注目していただければと思う。
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