お腹にもたれるような料理ではないはずなのに、このところの業界の動きには食傷を感じざるを得ない牛丼業界。「牛丼戦争」はとうとう最終章を迎えた。しかし、誰も幸せにならない結末しか見えてこないのだ。
筆者が「牛丼戦争停戦」を提唱するは、吉野家を守りたいからではない。誰も儲からない不幸な戦いの果ての「牛丼業界」を心配するからだ。
ネット上の掲示板やSNS、BlogやTwitterの書き込みを見ると「さすがにやり過ぎ」「安すぎ怖い」などの声が目に付く。前掲の産経ニュースの記事では<消費者の節約志向で業界最安値争いは激化の一途だが、消費者にとっては“朗報”となりそうだ>と結んでいるが、そんなことはない。消費者の低価格志向は高まっているが、「食の安全」への関心がなくなったわけではない。恐らく、各社の250円牛丼の写真を撮ってネットにアップする者も出てくるだろう。そして「こんなに具材が減った」などとコメントされるのだ。減っているのが事実か否かはともかく、そうしたネガティブなイメージが伝播するリスクも抱え込むことになる。牛丼業界全体のイメージダウンは免れない。
消費者の「牛丼離れ」が加速するかもしれない。それ故、牛丼戦争の停戦を訴えたいのである。
このまま戦争が続いて、消費者の牛丼離れも起こったら、最初に倒れるのはやはり吉野家だろう。そうならないためにも、また、牛丼戦争停戦のためにも、同社には「プレミアム化」することを勧めたい。
牛丼一筋111年。吉野家のブランド価値は今ならまだ生きている。「味へのこだわり」という米国産牛も、「さし(脂肪)」の付き方が豪州産とは違い柔らかいと評価するファンも多い。
「吉野家は、こだわりの牛丼を500円で提供する」。低価格戦争から離脱して、そんな一種のプレミアム化路線に転換すべきなのだ。500円がプレミアか否かという議論もあるが、昨今の消費者のランチ予算は日常的には300円~500円に抑えたいという意向が強い。その上限をプレミアム価格として狙うのである。
「安い・早い・うまい」というキャッチフレーズの「安い・早い」で利用する層をバッサリ切り捨てる。当然、規模を追うことはできない。故に、リーダー争いをやめて、プレミアム牛丼という「ニッチャー」としての独自の生存領域を確保するのである。是非、検討をお願いしたい。
※4月5日発売の「週刊プレイボーイ」P.37~39に牛丼戦争と吉野家の生き残りに関する記事が掲載されています。後半に筆者の取材コメントが掲載されています。また、近日中に「夕刊フジ」にも同様のテーマの特集で取材コメントが掲載されます。各メディアも牛丼戦争から目が離せなくなっています。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。