コクヨS&Tから発売されている「針なしステープラー」が大ヒット中だという。そのワケをマーケティング的に考えてみると、まさに「売れるべくして売れた商品」であることがわかる。
上記で同社は「環境・効率・安心」の3つの視点と不満解消から生まれた商品であるとしている。
一目見ればメリットがわかる、前述の2穴パンチ兼用で、すぐにファイリングできるという点は「効率」の実現だ。
針を使っていないため、「分別不要」。「そのままシュレッダーにかけられる」という点もいわれれば激しく同意してしまう。オフィスを取り巻く外部環境として、「環境対応」と「情報セキュリティー」は大きな課題だ。いらない書類は即シュレッダーが基本である。しかし、環境対応のためには金属と紙は分別が必要だ。
ホチキス止めした書類だと、専用のホチキス外しもあるが、見つからずに、つい指でガシガシと外そうとして爪が欠けたことはないだろうか。ネイルをきれいにする昨今の流行のなか、そんな危険性が排除できるのはありがたいだろう。その点を「安心」としてニーズギャップの解消を訴求している。
いいことずくめのこの商品。気になるお値段だが、5,500円(税別)だという。その値段の設定がまたうまい。
プライシングは原価コストに利益を積み上げる「自社視点」と、顧客がどれだけメリットや価値を感じて払ってもいいと考えるかという「顧客視点」、競合商品との価格比較による「競合視点」の3要素で考慮する必要がある。
顧客視点で考えれば、是非使いたくなる便利さ満載であるだけでなく、分別の気遣いや、ホチキスの針外しの手間や時間がいらなくなるだけでなく、消耗品である針が不要になる。
競合視点で考えれば、2穴パンチは個人用ではなく、作業台に置いてあるようなちょっとしっかりしたタイプは1,500円~2,500円ぐらいだろう。ホチキスも同様なものは1,000円くらいか。合計で2,500円~3,500円が競合の価格である。1,500円~2,500円ぐらいが顧客視点で考えたときの「プレミアム」となるわけだが、大ヒットしているのはそれが十分ペイできると顧客が判断しているからだ。
自社視点で考えれば、筆者が四半世紀前に既に手にしていたことから、メカニズム的に何かコスト要因になるような特許を用いているわけではないだろう。だとすると、原価は自社で全てコントロールできる。故に、コクヨにとってはこの大ヒットはかなりオイシイ状態だといえるだろう。
大ヒットでオイシイ思いを享受できているのは何故なのかというところが大切だ。
昔からある「枯れたメカニズム」を自社の工夫で、紙を綴る枚数を向上させる能力などを磨き上たこと。そして何より、昨今のオフィスとその外部環境の現状、そこで働く人々のニーズギャップを丹念にすくい取ったことが大ヒットのヒミツなのだ。
売れるべくして売れた商品には、必ず明確なワケが存在するのである。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。