人目を惹くメインコピーではなく、製品やその周囲にそっと添えられたサブコピー。その例から、顧客を動かす「ひと言」を考えてみよう。
永谷園の新カテゴリー商品「生姜の知恵」シリーズ。主要ブランドである『「冷え知らず」さんの生姜シリーズ』は生姜を用いたカップスープや飲料、菓子までと幅広いラインナップを展開している。今まで同社製品の主要顧客は、ふりかけやチャーハンの素などを買うスーパーで買い物をする主婦であった。同シリーズによって、チャネルを各コンビニチェーンやJR東日本管内に展開されているエキナカ自販機「acure(アキュレ)」などに大きく拡大。接点のなかった若い女性を取り込むことができた。自らが作り上げた「生姜ブーム」は正に収穫期を迎えているところだ。
しかし、接点のなかった若い女性にとって「永谷園」というブランドは馴染みが薄かったはずだ。「冷え知らずさん」というネーミングと、女性を意識したパッケージは確かに手に取りにくい。食べたり飲んだりしてみると、確かにオイシイ。体も温まる。だからといってリピートしてくれるとは限らない。カップスープ類ならともかく、acure自販機で永谷園製品は「生姜チャイ」のみ。物珍しくて一度は飲んだとしても、自販機内には競合が目白押しだ。しかも、同商品は283gで150円と割高だ。
そんなボトルのパッケージにはさりげなく、「ポカポカ美人になろう」というサブコピーが添えられている。生姜飲料で美人になれるかはわからない。しかし、飲み続けて、血行がよくなって何となくキレイになれる気はしないだろうか。「また飲んでみよう」と。少なくとも、ほんの数十円の違いなら、リピートさせる気になるコピーの力であるといえよう。
正確にはサブコピーではなく、展示商品周りに添えられるPOP(Point of purchase :売り場に設置される宣伝材料)のコピーなのだが、秀逸なものを最後にご紹介したい。
筆者が15年以上前にうかがった、桂文珍師匠のお話だ。いわく、「大阪で980円カメラのワゴンセールをしていた。そこは客の心が良くわかる大阪の商人がすることで、東京だったら『激安!』と書くところを、ズバリ一言書いていた。『写る』だ。980円が安いのは当たり前で『安っすいなぁ』と見ればわかる。手に取って次に『ちゃんと写るんやろか?』という客が不信感を口にすることなくそれを書いておけ。ということだった。人を動かすひと言は、徹底的に顧客の心を洞察し、先回りして目に触れさせねばならないのだ。
サブコピーの話だけではない。ここから学ぶことは数多くあるといえるだろう。
続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。
- 会員登録 (無料)
- ログインはこちら
関連記事
2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。